第02話 余命ポイント



 後期高齢になると自分の余命が残り少なく、日々気にかかります。

ちょと体調が悪いと、もしか大病の前触れでないのか、と病院に

駆け込みアレコレと検査した結果、

  「食べ過ぎですよ。軽い運動をしてください。」

と言われても、不快な症状は続いているのであの医者は(ヤブ)と

決めつけて納得の答えが出るまで次々と病院を変えて歩き周り、

ついに病院サーファーになってしまいました。

 

ふと、歳のせいかと諦めたいのですが、宣告できない謎の大病か

と思い悩み続けています。

 これはスマホで得られる多量な医学情報の影響かもしれません。

 
 私のような病気好きに最適なサービスが始まりました。

それは自身の余命をリアルタイムでスマホに知らせる物でした。

 飛行機を利用するとマイルが貯まり一定量のマイルに達すると

運賃値引のサービスは昔からありました。

他にも会員券にスタンプが貯まると値引きしてくれました

 

 それがスマホでポイントが着けやすくなり、顧客の抱え込み

に使われています。

 商品や買い物で貯まるポイントは楽しみだし、ポイントが貯まる

と貰える物や買い物に使えるお得なサービスが蔓延しています。

 

 そこでポイントを見るのが癖になり暇だとスマホで取出して

チェックしています。

 さて、余命ポイントにはどんな特典がつくのだろうか。

 

余命サービスセンターに個人情報を登録すると、すぐに平均

余命の連絡が来ました。

 まだ少しの間はこの世で暮らせそうなポイント数で安心してい

ましたが、いつものように病院に行った時、余命ポイントが気に

なりスマホを開くと。昨日のポイント数より減っているのだ。

 
 大した減り方でなく診察を受け薬をもらい車で帰宅しました。

 寝る前にポイントを見ると増えているだろうか、と期待しま

したが、朝方に見たポイント数はさらに減っています。

 心配になり眠気は消えて隠れた病かと朝まで考え続けました。
 スマホを見るとポイント数の他に細かな注意書きがあります。

 今日の行動に従ってチェック項目が出て、細かなポイントが

出るようですが空欄のままです。

 

 ポイント表示の下を読むと。

 『余命ポイントセンターにご登録ありがとうございました。

  初めて登録された方は平均余命ポイントが付加されます。

  このポイントはあなたの余命の保証ではありません。

  これからも十分注意してお過ごしください。』

 

『よろしければ、(確認ボタン)を押してください。』

さらに表示には

  『(確認ボタン)を6時間以内に操作しないと再度余命

   ポイントサービスの契約ができません。』

とかなり強引な勧誘です。

 不安を抱えたまま、(確認ボタン)を押すと。

 朝食から始まり、病院までの往復運転、医師の診断、薬の効果

などが細かくポイントとして現れました。

 試しに朝食の項目をクリックすると食事時間、食材、咀嚼回数

や、食事量などからポイントが出る仕組みのようです。

 

日々の活動が余命に影響しているのだろうかと半信半疑でした。

 

 運転の項目では運転速度、時間、運転コースとハンドル操作、

視線を検知して、さらに渋滞や車の前後左右の状況と安全確認に

加えて、移動時の沿線状態までチェックしているようです。

 

 確かに最近の車にはドライブレコーダーがついたり、居眠りを

検知して休息を促したりしてます。

 余命センターでは車の移動をナビと連動させて現在地を知り、

事故や地震の際には近接の建物から危険物の落下があるかなどを

予測してくれているようです。

 

 安全運転を心がけ、危険な場所を避けて走れるとポイントの

影響は少ないと知りました。

 

まさかテレビを見ているとポイントの変化があるのだろうか。

相手をど突いて無理やり笑いを誘う場面を見ると不快な感情が

湧き、ポイントは下がります。

 名人の噺で腹の底から笑えた時はポイントアップしています。

見る人によって受け方は異なるでしょうから、どう検出がされて

いるのでしょう。

 呼吸数、脈拍や笑い顔などを検出しているのでしょうか。

 この契約者の反応でポイントに反映しているのでしょう。

 芸人はビックデータを利用してこれからは本物の笑いを追求し

芸を磨くことに期待しましょう。

 

 余命ポイントセンターで定期検診の申込みができるようになり

ました。

 血液や尿から健康状態を見つけ出す従来の方法から歯科検診と

認知検査などが加わり、総合的に診断して予防するプログラム

が組み込まれています。

 わずかな不調で病院を訪れていたのが減り、検査センター

では今までより精密なデータが得られるようになりました。

 
 心配する結果でなければ余命ポイントがアップされます。

ポイントが急激に下がった場合は適切な治療ができる病院が紹介

され病室の予約までしてくれます。

 

 余命ポイントの利用でいつ頃に臨終を迎えるのか知ることがで

きるので、これをビジネスに利用したい業者が現れ余命センター

ではビックデータだけに限定して公開することになりました。

 それでも葬儀やお墓の宣伝ばかりが目立つようです。

 

 余命ポイントセンターの契約を理解できないのは家内でした。

病院通いが始まったのはずっと前で、家内は私が頻繁に出かけ

るので浮気かと疑ったようです。

 長い間、連れ添って病院好きと気がついてくれたようです。

体の少しの変化を敏感に捉えて病院に出かけ安心して帰宅しては

また新たな不調を探し出します。

これが病院に行く日課なのにうろうろと家にいないで助かる程度

に思ったり、深刻な病かもと心配してくれているらしいですが、

余命ポイントを知ると。

 「そんな気味の悪いことはやめてよ。」と始めは嫌っていた

家内でしたが、私が不調の時は心配してポイントを覗き見して

 

安心できたので家内も契約しました。

 

 余命ポイントセンターと契約すると常時監視されます。

これを嫌った人たちからポイント廃止運動が起きて来ました。

だがその人たちは激しい雨が降るとハザードマップを広げては

我先に逃げ出したのです。

 命を失うのは誰でも嫌で自分だけは助かりたいのですね。

そんな人たちを対象に余命ポイントに変わるスマホのアプリが

発売されました。

 それはセンターに頼らないで余命を知る方法で車ならドラレコ

を着け、スマホの天気情報でルートを決めたり、地震の時は震度

速報を見て親族の住む地区を知る方法で従来と同じですが、

これを連結させて余命値が出せるシステムのようです。

 その後システムに追加する様々なオプション機能が販売され

余命値の精度が向上しました。

 

 安全運転が広まり交通事故は減り、ポイントが変わらない少し

の不調では病院に行かない人が増えて、病院は本当の病気治療に

専念できて平均余命は増加して来ました。

 また殺人や強盗などの凶悪事件はポイントが大幅にダウンする

ので、事件は徐々に減りました。

 もちろん余命ポイントが世界中で使われると戦争はなくなり

平和になって来ました。

ポイントに影響する危ないことはなくなり、世界中が穏やかに

なりました。

 

 大きな課題は心が停止してポイントに影響してしまう現象です。

近親者やペットとの別離は辛く長引き、時には自殺に追い込んで

最悪な結果になるのを防ぐ手立てです。

 

 この時は余命ポイントは低下して、動くことや食事をことすら

できなくなります。

 体力は下がり気分は死の世界に向かってしまうのです。

余命ポイントセンターはこの人を救う秘策がありました。

 対象者の心を動かすためにその人に適した提案がされます。

例えば、旅行好きなら旅のガイド情報を届けたり、宿の予約を

してくれます。

  ゲーム好きなら新しいゲームをスマホに送りゲームに熱中

させます。

 

 わずかになった余命をどのように受け止めて最期を迎えるか。

リアルタイムで余命を知るとますます不安が高まり、ポイントの

減りが急になります。

 そこで数日前か数ヶ月前まで余命ポイントを知らせない機能を

選択ができるようです。

 いつも監視されていたポイント社会から孤独な世界にゆく準備

期間が待っているのです。

 

いよいよ余命ポイントが残りわずかになりその時を迎えること

になりました。

 ベットに横になると余命ポイントセンターからスマホに音声が

流れて来ました。

 「長い間ご利用いただきまして、ありがとうございました。

  いよいよこの時が来ましたね。」

 最後の力を振り絞りスマホを操作すると、わずかだけ数値は

上昇しましたが、すぐにゼロに近づきます。

 

 「静かに出発の時期を迎えてください。これからはポイントを

  気にしない世界になります。さあ胸に手を置いて全身の力を

  抜いて、深く息を吸い込んでください。

  そしてゆっくり吐き出し終わるとお別れです。」
  

   もう欲しいものは何もない、と悟り。

   ただ「フー」と息を抜きました。

   あれ、スマホがない。

 

 

 



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by;colow.81