第20話 消えた頭部


 久しぶりに二人で近くの低山に出かけた時の話です。

 歩きな慣れた山だったのですが、途中で道を見失い森の中に出てしまいました。

 周りは薄暗くびっしりと杉が植えられて見通しができない所です。

10メートルほど先に茶色の物がありました。

 こんな場所にゴミを捨てたのかと不思議でした。

 「なんかあの袋変よ。」

 「袋じゃあなさそうだ。もしかして動物の死骸かもしれないな。」

 「気持ち悪、早くここから出ましょうよ。」

 「動物にしては大きいな。もしかして死体かもしれないよ。」

とその途端に体が震えてきたのです。

 「早く山を降りて警察に知らせましょう。」

 急いで元来た道に戻りましたが、頂上付近まで体の震えは止まりませんでした。

 

 舗装道路に出てからは急ぎ足で麓に降りました。

辺りは暗くなり始め、遠くに赤い灯がありました。

 交番でした。

 「すいません。山の中で死体のような物を見つけたのですが。間違

  いかもしれませんが届けにきました。」

 「場所はどの辺りですか。」

 話し始めると、もう一人の警察官がそれを聞いて電話連絡している様子です。

 「そこに腰掛けてください。」

 駆け下りてきたので喉がカラカラでした。お茶でも出るのかと期待したのですが。

 書類に住所、連絡先、名前を書かされました。

 私たちの後ろに二人の警察官が立って、逃げない様にしている感じです。

 

 「やあ、待たせてしました。私が担当刑事です。詳しくお話しくだ

  さい。」

私服姿の刑事でした。

 また同じ話をして発見場所の概略図を書きました。

 「ではこれから現場に行きましょう。」

 パトカーに乗せられ、サイレンを鳴らし、赤色灯の点滅が暗い山道を照らしていました。

 「この辺りを登った所ですか。もう暗いのでその場所に行くのは無

  理ですね。明日行って確かめてきます。」

パトカーで近くの駅に下されました。

 

 「こんな登りのきつい山か、他に道はないのかな。」

普段歩き慣れている刑事のぼやきだ。

 「この付近が地図に書かれた場所です。」

 数名の捜査員が茂みを警杖でかき分けながら周囲を探しますが死体は見つかりません。

 「この手書き地図が間違っているのかな。届出した人に同行しても

  らいましょうか。」

 「そうしてくれないか。パトカーでなくて署の車を使ってくれ。」

 

 「昨日はありがとうございました。今日はご在宅と思いまして捜査

  協力をお願いして申し訳ありません。」

 昨日歩いた場所に数人の捜査員がアルミケースや死体を運ぶ担架などを持って待機していました。

 「早速ですがお届けいただいた地図で付近を捜索しましたが、発見

  できないで同行をお願いした次第です。」

 「申し訳なかったですね。あの時は気が動転してしまい間違った場

  所を示したかもしれません。確かここを右に降りた所だった様な

  気がします。ご案内します。」

 昨日書いた地図とは反対方向の場所でした。

私は慣れた足で駆け下りました。

 

発見場所に着くと黄色い物がありました。

 「おーい。ここから先は新米の捜査員を先頭に行かせてくれ。慣れ

  させたいのだ。」

と刑事の指示が飛んだ。

 「この先は私どもが捜索しますからここでお待ちください。ところ

  で発見の際に匂いはしませんでした。」

 「離れていたのでそれらしい匂いは感じませんでした。」

 「届出の時にお伺いしましたが、首がない女性の死体だと聴いてま

  す。この場所からなぜわかったのですか。」

捜査員の一人が刑事の耳元で囁いていました。

 「不思議ですね。死体には頭部がないんですよ。付近を見渡しても

  発見できません。これから捜索範囲を広げて探します。それに性

  別は女性です。」

刑事の目が変わった。

 「もう少しお話をお聞きしたいのですが、明日署ではいかがです

  か。お迎えに行きます。」

 

 「申し訳ありません、応接室の空きがないもんで。」

と通されたのは第一取調室でした。

 テレビで見たのと同じだ。どこかにカメラがありそうだ。あれが鏡で向こう側に覗ける仕組みかな。

 「昨日見つけた遺体ですが、それについてお伺いしてもよろしいで

  すか。」

取り調べが始まったようで、刑事の顔だ。

 現場の写真が机に並べてあります。

 「どうしてこの場所から遺体の状況が詳しく分かったのですか。

  我々専門家でもこの位置からでは判明できないものです。」

 「近くに寄って見たわけではありませんよ。もし遺体だったら恐ろ

  しいですからね。」

 「これが遺体です。お話にあった通り頭部はありません。それに性

  別は女性でした。偶然ですかね。」

 「第一発見者が犯人だと聞いてますが、まさか私が犯人だと思って

  いませんか。」

 「あまりにも遺体の状況がお聞きした内容と一致しすぎてますし。

  通報協力した方に失礼ですが他にご存知か見たものはありました

  か。」

 「何もないですよ。写真を見ると衣服がないですね。見つかりまし

  たか。遠くからの写真の通り黄色のものとしか分からなかったの

  ですよ。」

 「あなたが証拠隠滅のために頭部を切断して、着衣を剥いだのでは

  ないですか。」

 「よしてください。幾度も話しますが偶然に死体らしいものを見つ

  けて届けただけですよ。犯人扱いしないでください。」

 

 翌日の朝刊に(道を間違えたハイカーが遺体発見)とありました。

 

第21話に続きます

 



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by;colow.81