忘れ物をしたようだ。
中身がわずかしか残っていない古い財布だ。
公園のベンチだったか、電車のシートだったか。思い出せないから忘れ物になった。
思い出の詰まった財布だから探したい。
帰りがけに忘れものセンターに寄った。
「すいません。」と声をかけたが何の返事もなかった。
もう一人、センターに入って来た。
「すいませんが。」と小声で呼んでいる。
今度は大声になり「すいません。すいません。」
「あのう、誰もいないようですね。私は財布を探していますが、
あなたはなにを。」
「ここで働いていたようですが。忘れてしまいまして。」