第07話 生物兵器


 私は暗い研究室の閉じこもり軍隊アリを長いこと研究しています。

 あのアリは定住することなく、数万匹でひたすら行進しては食い物

出くわすと、たとえ小さなネズミから大型の象であろうと、時には

人間までもみんなで揃って攻撃して骨までも食い尽くしてしまい、次

獲物を探しに行進します。

 一度噛みつかれたことがありますが、小さい体なのに顎の力が強く

肉まで食いちぎり毒針もあります。気絶するほどの痛さでした。

 あの時逃げなかったら私は地上から消えていたのかもしれません。

 ある所の刑罰で犯罪者の体に蜜を塗りアリの行進の中に放り込まれ

たそうです。また死者をアリに任せる蟻葬があるとか。

 あのアリには目がないので全て女王の指示に従ってみんなで一斉に

行動する訓練を受けています。

 個別の兵隊には考える能力がなくて反逆する者もいないし脱走兵も

いません。

 女王アリは10年以上の寿命で兵隊アリを増やし続け、兵隊アリは

1年余りの寿命その間は行軍し続けて獲物を食べ尽くすのです。

 まさに地上最強の殺人アリです。

 

 人は地上に現れて以来、獲物を得るため相手を殺す宿命があり、

戦争が世界各地で起きています。

 独裁者の指示があれば殺人であっても従わなければなりません。

 相手を殺して侵略行進する様は軍隊アリと同じでそれを止める

手立ては存在しません。

 何年も前から宗教は人を殺す罪を訴えていますが、地獄に行く

とか、恐ろしい世界が待っていると脅すだけで止められません。

 それどころか次々と新しい多量破壊武器が開発されて、簡単に

多量の人を殺してしまいます。

 昔の戦いは相手を棍棒で殴る程度だったでしょうが離れて

戦える槍が登場し、弓矢になり毒矢へと発展したのでしょう。

 科学は鉄と火を操れると鉄砲ができ、拳銃とか機関銃などの

扱いやすい兵器が誕生してしまい、次第に空の空間まで広がり、

戦闘機からミサイルなど遠くの物を破壊しています。

 さらに人が扱えない太陽の源の核融合まで手に入れ、地球上の

全生物を何回も殲滅できる膨大な数の核爆弾が保存されています。

ついに軍隊アリよりも恐ろしくなったのが人類です。

 

 私に(次期兵器を考える会)から案内状が来ました。

軍隊アリの研究者と軍隊を間違えたのだろうと思ったが、たま

にはアリだけでなく人間を相手にしたくなった。

 会場は都内の有名ホテルのようだ。まてどのような姿で行けば

いいのか。ジャージしかない。と気がつき欠席するかと考えた。

 

その時、友人から電話が入った。
  「よう。久しぶりだけが元気か。」
  「ああ、なんとかね。」
  「あのさ。君にも考える会から案内状届いた。」

  「来たけどなんだろうかと思っていたし、会場にゆく服がない

   ので迷っていたところさ。」

  「いつもジャージ姿なら研究者らしいよ。」

  「君はまだあの研究を続けているのか。

  「大学に残って実用化できない武器を研究しているが、出来上

   ても使えないことを望んでいるので成果発表はしないさ。」

  「それが良いよ。じゃあ会場で会おうか。」

  

 ホテルの会議場だ。高い天井と大きなテーブル。どこに座れば

居心地が良いのか迷ってしまった。

 会議が終わるのが昼時だから、美味い飯が食えるか期待した。

  「よう、久しぶり。本当にジャージで来たのか。」

彼はスーツ姿で学者らしい雰囲気だ。

  「まあいいさ。お見合いでもなし。これでも昨日洗濯した

   ジャージだよ。」

周りの目がジャージに集まっているようだ。

 

  「お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。」

  「今日のテーマはご案内の通り皆さんで日本を守る

  (次期兵器)についてお話し合いを開始します。」

  「日本は周辺国の動きが危ない時期になり、専守防衛か敵基

   地攻撃を優先するか論議する時がきました。」

  「お集まりの方々で近い未来の兵器についてお話を頂きたい

   と思います。」

 

  「まず今の防衛で日本は守れるでしょうか。」と司会から

すると待ってましたと、それぞれ発言が飛び出しました。

   「絶対に無理ですよ。迎撃ミサイルがあるから安心ですか。

   180発しかなく米国から無理に買わされた中古品です。

   落ちてくる鉄砲玉を鉄砲で撃ち落とすなんて、

   計算上では80%位でしょうが実践に使ってないですよ。

   イージス艦とセットで守るとか、それも無理ですよ。」

  「予測コースを落下する古いミサイルの話ですよ。

   極超音速ミサイルが変化するコースで来たらだめですね。」

  「相手は微力な基地を高価なミサイルで破壊して徳になる

   のですか。兵隊が上陸して攻撃すれば事は終わりですよ。」

  「基地を攻撃すれば反撃がないという考えですかね。そんな

   話は時代遅れです。今攻撃されて防衛体制が整うまで24

   時間以上かかりますよ。それにろくな兵器はありません。」

  「3日間耐えられる程度の自衛では心配ではないんですか。」

 

  「わかりました。この事態を打開する兵器を考えましょう。

   本日の課題である(次期兵器)についてご発言ください。」

 

  「江戸時代に外国船が攻めて来そうで、江戸湾急遽お台場

   を作り大砲を設置してます。今は同じ状況ですよ。」

  「全国の海岸に砲台を作るアイデアは如何ですか。海岸線は

   凡そ3万4千キロです。離島を入れないと2万キロ程度で、

   1基が30kmの射程とすると、大体1千基の大砲を配備

   してリモコン監視と攻撃をしてはどうですか。これなら

   上陸できないでしょう。」

  「それに加えて日本は量産が得意だから、守る装備を各家庭

   に常設しては如何ですか。例えば機関銃などの兵器です。

   約5千万丁必要です。今からメーカーが全力で量産すれば

   容易にできる数ではないですか。」

  「自衛隊任せだと守れない状況ですね。国民の意識を変える

   時ですよ。自分の身は自分で守るのが基本です。」

  「核兵器を生産しては如何です。原料となるプルトニューム

   の保有量は十分です。今の技術なら簡単に作れますね。」

  「核攻撃される事はないとお思いますか。全面核戦争で

   人類が壊滅し、放射線は永久に害になるとわかっている物

   を使いますか。それよりも核爆弾が宇宙空間で爆破したと

   き発生する電磁パルスでインフラが停止します。

   インフラが止まれば生活ができなくなります。

   宇宙空間仕様の原爆を生産しては如何がですか。」

  「そうですね。今の兵器は無残な兵士の死体の山を作り体

   の一部吹き飛ばされた彼らは生る限り戦争を恨み続ける

   のですね。」

  「戦いが続く限り死はつきもので避ける事はできません。」

また会場は暗くなってしまった。

 

  「鉄や核を使わない方法はありますか。ドイツで開発された

   サリンとかの毒ガスはダメですかね。化学兵器禁止条約が

   あるからと研究や製造はしていないですね。戦争は禁止

   しているはずが守られいませんよ。」

  「あのお、開発中ですがこれが実用化すれば究極の生物兵器

   になるものです。まだ極秘で細かくは発表できません。

   ある生物によって人間だけを殺害するものです。それ自身

   が移動して攻めるものです。」

会場がガヤガヤと騒がしくなりました。

  「皆さんは軍隊アリをご存知でしょう。あのアリは移動して

   食物は全て食い尽くして行進する恐ろしいアリです。その

   アリをヒントに誕生したものです。アリについてはこの

   会場にいるジャージ姿の彼が専門です。」

  「初めて聞きました。お役に立つようなら協力します。軍隊

   アリは実に統制された群れです。アリの毒が兵器になるか

   知りませんがご存知の蟻酸は日常で使ってますよ。」

話は生物兵器に期待されたようです。

  「皆さん。次回は5ヶ月後。この場所で続きを行います。

   ご苦労様でした。」

 ぺットボトルのお茶は残したままだ。わずかな日当と電車賃が

入った茶封筒を受け取り解散した。

 

  「すまなっかったね。あまりにもくだらない話なので

    内緒にしたかったけど皆さんに話してしまい期待が大き

   そうなので具体化することになると君の協力が必要

   なんだ。」

  「軍隊アリの仲間との連絡方法と生き物を探す方法は何か

   あるのか教えてくれないか。」

彼はこの部屋に似つかない洗い立ての白い実験着を着てきた。

  「連絡は集合フェロモンだよ。頭の触覚で生き物が動いて

   か検知するのだ。ところであの兵器はアイデア段階か、

   それとも実用化しそうな物なのか教えてくれ。」

  「実験段階で、動くことは分かったよ。これを兵器として

   仕上げのが次の段階だ。殺人をどうするかだ。毒液を吹き

   かけると死ぬが死体が残ってしまうのが問題さ。軍隊アリ

   は死体を全部食べると聞いたがそれが理想だけど、どうす

   ればいいのかな。」

   「彼らは食い尽くす鋭い牙と口があるな。骨を溶かす強い

    酸を利用すれば死体は溶けるよ。」

   「それだな。薬品会社に勤めている彼の協力を得よう。」

 

 その生物は百合の形をして花びらが開いて中央の部分から毒液

を出し、花びらはいつもは閉じていて飛行の際は開いて高速回転

してドローンのように飛行できる構造だ。仮に殺人百合と呼ぶ。

特徴は。

 *花だからレーダーで探知できにくく迎撃は不可能。

 *タネで繁殖しわずかな水があればどこでも育つ。

 *軍隊アリの探知能力を人にだけ反応する改良で人を見つける

  と毒液を照射して、死体は跡形もなく消える。

 *敵味方の判別は育苗の時に薬品の配合で決まる。

 *殺人百合は上空からの攻撃で隠れるしか助かる方法はない。

 

 特別な機密許可が出て殺人百合のタネは多量に作られ、実戦に

使える量に足した。

 

 その後、あの(次期兵器の会合)から5ヶ月を経過した。

  「皆さん。本日はすばらしい生物兵器が発表されます。」

 彼は会場に相変わらずジャージ姿で出席していた。

  「では発表をお願いします。内容は極秘ですので絶対に口外

   しないようお願いします。」

殺人百合の姿が会場のディスプレイに映し出し特徴が披露された。

 会場がどよめいた。

  「これが武器になるのですか。」

  「綺麗な百合の花そのものではないですか。」

  「いつこれが実戦に出るんですか。」

  「他の国が知ったら大変なことになりますよ。」

  「究極の最終兵器ですね。」

  「核兵器より恐ろしい。」

 ジャージ姿の彼が発言した。

  「皆さん殺人百合は特別許可を得てすぐに実戦配備できます。 「侵略された時はすぐに殺人百合を放てば敵は壊滅します。

   侵略された時は殺人百合を放てば敵は壊滅します。

   ただし攻撃に使われたらひとたまりもありません。」

  「ではどうすればいいのですか。」と質問が叫ばれた。

  「ある条件をつけて殺人百合を世界中に配布することです。」

  「核兵器と同じに世界に拡散させる気ですか。」

  「この生物兵器は核兵器以上の物です。どこかが持てば優位

   になり侵略に使い出します。そこでですがこの殺人百合と

   従来兵器を交換する条件で配る事です。その結果従来兵器

   は無くなります。」

  「まだ実戦に使われていない物を信じてくれますか。」

  「まさか。実験で人殺しはできません。そこである北の国

   に優先的に提供してそろそろ結果が報告されます。」

 

 実験は成功して大量の注文が来ました。交換条件は満足させる

との回答です。

 これをきっかけに全世界から注文が殺到しました。

 従来の兵器は拳銃から機関銃を始めとして、戦車やミサイル

核兵器までこの地上から殺戮の道具は消えてしまいました。

 しかし一部の独裁者は生物兵器で侵略を企て、各地で悲惨な

争いが勃発する間際になりました。

 

 ところがある日のこと、殺人百合は全て枯れたのです。

    めでたし、めでたし

   

 



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by;colow.81