第19話 自分の葬儀


近所からお悔やみの回覧が来ると決まって。

 「父さん、そろそろ私たちも準備する年ですね。」

 「そおだね、誰にでもくるのだからなあ。」

 「そう言えば、先日、出かけた時に新しいビルがありましたね。」

 「あああれは、葬儀場らしいけど大きなビルだな。今時は家族葬が

  主なので小さな所があるけど、変わった建物だな。」

 「見学して見ましょうか。」

 

 ホテル並みの広いロビーです。

 「今日は見学にきましたが。案内していただきますか。」

 「いらっしゃいませ。様々なコーナを準備しております。是非ご覧い

  ただきまして納得のゆく葬儀ができるようご案内しております。」

 この施設では実際の葬儀は行わないで、生前にご自分の葬儀を体験して、その日がきた時にご親族が慌てないでご希望の葬儀が執り行えるように体験する設備です。

 

 別室に案内されました。

 正面に花が飾られた祭壇で、葬儀で見慣れた部屋です。

 「ここでは実際にお棺に入って頂きます。生きている間にお棺に入

  ると生まれ変われると人気があります。是非お試しください。」

 「父さんが先だから、どうぞ入ってください。」

 「お棺に入れる生花は本物を使わらせて頂きます。祭壇のお花は造

  花を使っております。実際には季節によってお花の種類が違います

  のでご了承ください。」

 「よろしければ準備いたしますのでしばらくお待ちください。」

親族役のスタッフが数人現れました。

 「それではご入棺いたします。」

棺の大きさは狭いです。いい香りの花が手向けられました。

 棺の蓋が閉じられ棺の中が暗くなりましたが、すぐに顔の部分が開けられました。母ちゃんは手を合わせてニッコリと覗き込んでいます。

 「おーい。次はお前が入るんだよ。」と叫びました。

 

  「次は火葬コーナーになりますが、このまま続けますか。」

 「すいません。買い物の予定がありますので次の機会にお願い

  します。今日はありがとうございました。」

帰りがけにパンフレットが渡されました。

 

数日後、一人で訪問して残りの火葬コーナーの見学しました。

 「先日はありがとうございました。本日は葬儀の最後までご案内い

  たします。」

 

 火葬コーナでは最後のお別れ儀式の後にお棺を火葬炉に入れ、部屋を40度程度に上げて体感できるそうです。

このコーナーには火葬作業を実際にしている方の解説がありました。

 火葬は重油とかガスなどを使い、凡そ1千度で焼きます。

 火葬中に炉内を見る小窓があり燃焼具合を監視できます。火葬技師さんはバーナーの音と高温の環境に耐えながら仕事を行っております。

 独特な匂いが出ますので排気など十分にしています。

 大変なのは熱さが残っている火葬炉に入り、お骨の状態を綺麗にする作業をしております。また骨上げの際は熟練者が行います。

 「火葬で困ることはありますか。」

 「副葬品に不燃品があるとお骨に付着する時があります。火葬前に

  ご注意申し上げております。」

 

 次に案内されたのが納骨コーナーです。

 流行りの樹木葬とか、家族墓や二人墓などを展示して、納骨先を以前に予約できます。

  また別室に骨壷の展示があり一般的な白い壺から人間国宝が作られた貴著な壺がありますので事前に選べます。

 戒名を希望する方は生前につけていただけるサービスがあります。

 

 特別コーナーもありました。

ここでは平等院のように極楽を模した空間が用意されていました。

 

 よし、これで安心してあの世に行けそうだ。



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by;colow.81