第10話 球体


地球では

 「昨年、アマチュアの観測で発見された小惑星帯の球形の物体につ

  いて、その後宇宙望遠鏡ジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測

  した結果、球体は数十個あり群れで居ることがわかり、それらの

  球体は人工物の可能性が高いことがわかりました。

  そこでNASAは今月打ち上げ予定の水星観測衛星を急遽この球体観

  測に向かわせて詳細観測をすることになりました。

  準備におよそ20日間を予定して、球体への接近観測は2年後に

  なる予定です。

  なお。我が国および関係各国は球体の地球落下を想定して対策を

  立て始めています。」

 巷ではあの球体に乗った宇宙人が攻めてくるとか、地球最後の日がくるなどの話題で溢れてきました。

 

球体とは。

 球体は人間の誕生よりも遥か昔で、細胞の塊だけで成り立ち宇宙空間に球体として存在しています。

 この球体群は自ら食料の生産はしないで、星の生物からタンパク質を取り出して球体に保存し生命維持と移動エネルギーに使います。

 それぞれの球体は個別の知能があり、他の球体と連携して行動しています。

 

球体間では。

 『そろそろ食料の準備をしませんか。』

 『食料を調達する場所がありますか。』

 『以前から観測していた星が有望です。その星に多量の水があり、

  平均の温度は20度程度で植物と動物の存在が確認できます。』

 『もう少し近づいて観測を続けてます。』

 

この頃、地球では。

 「ハワイのすばる望遠鏡で観測した結果、あの球体群が火星の近く

  にかなりの高速で移動しているとのことで、各国と連携して集中

  観測体制で取り組んでいます。」

 「今のところ地球への影響や攻撃の危機は観測されていません。

  ご安心ください。」

 

球体間では地球について。

 『植物の種類は多くあります。動物は80億ほどヒトという同じ種

  類がいて有望な食料源です。ただそのヒトの食料は雑食です。』

 『何を食べているか分かる範囲でいいですから報告してくだい。』

 『あの世界から出ている電波を解析した数字です。報告します。』

 『植物は主に葉っぱです。それに根とかタネがあります。木の幹は

  食していません。また彼らの長い歴史から毒のあるものを工夫し

  て食べ物にしていることもあります。』

 『高い知能を持つヒトです。』

 『動物はいろいろ食べています。主な食料になっている動物の現存

  数がキャッチされましたので報告します。

  動物の大体の量ですが。ツノがあるウシが15億、丸く太った

  ブタが10億、小さな檻にいるニワトリが200億です。』

 『またヒトは我々には理解できないことがあります。ヒトはあの星

  に出現して以来、戦いながら発達したようです。ヒトが増えすぎ

  と食料を他から奪い取るしかないのです。』

 『ヒトはいろいろと食べますから我々の食料に少ししか役立ちませ

  ん。ヒトの食料からなら有望なタンパク質が取れます。』

 『それは避けましょう。しかしあのまま放置していればいずれ食料

  が不足して争いが頻発します。ヒトの数を半分の40億にすると

  食料バランスが取れます。』

 『ではヒトを半分にすることにします。』

 『ヒトを直接取りに近づくとヒトは攻撃してきます。』

 『ではどのような方法にしましょうか。』

 『先ずは小さい球体を送り込んで様子を見ましょう。』

 

地球では。

 小さい球体はウイルスに加工して各地にばら撒かれました。予定通りにウイルスはすぐにヒトに感染しその星の全体に流行しました。

 「このウイルスの起源がわかりませんが、抗体ワクチンで戦う方法

  が見つかりました。ワクチンは量産できる見通しです。来年初め

  には全世界で接種される見込みです。マスクとウガイで予防して

  ください。」

 ウイルスの流行であの球体のことを忘れてしまい、何も語らなくなりました。

 

ところが球体では地球を平和にする動きが開始されます。

球体の活動は。

 『そろそろヒトに我々の存在を示す時がきました。急激に実態を表

  すと彼らの持つ武器で攻撃してきますから慎重にしましょう。』

 『では、小さい球体の毒性を強めてください。球体が恐ろしいと思

  わせるのが目的です。』

 

その頃地球では。

 ワクチンのお陰で一段落していましたが、ウイルスの毒性が突然に強まり、今までのワクチンでは無効になり手足の震えは激しく、体を縛るしか方法はありません。

 このような状態で敵に襲われてもあらゆる武器は使えないで戦うことはできません。

 『さあ始めましょう。まず我々の形をヒトが恐れる赤色に光らせて、地球の周囲に近づき空全体を覆いましょう。』

 ウイルスの影響はすぐに消えましたが、世界中の人たちは空に覆いかぶさる巨大な球体の群れは恐ろしい存在になりました。

 「ああこれが火星に近づいてきた球体の正体なのか。」と全ての人は気がつきましたが戦うことも逃げることもできません。

 球体の赤い色だけの光は見えるもの全てが赤くなり、炎か、血の色です。地獄の絵図がそこにあります。

 頭上に伸し掛かる真っ赤な球体はいつ地球に落下するのか、巨大な球体の落下で地上の全てが焼きつき、噴火が起こり、生き物は壊滅するのか。

 地上の全ての人類は恐怖が支配しています。

 『そろそろ40億のヒトを処理しましょう。』

 『できるだけ早く沢山の処理しないと彼らは恐怖で死んで役に立た

  なくなります。』

 

そこで球体の人はヒトに向けてメッセージを発信します。

 『みなさんこの恐怖から逃げられるにはあなたが信じている神様、

  仏様などにお願いするのです。神社や教会、お寺などに行ってく

  ださい。必ず救われます。』

とヒトの脳に直接送り込みます。

 助けを求めたい人々は近くの神社やお寺、教会に向かいます。

 俺が先だとか、私が先よ。と争いで大混乱が起き、それでも救いを

求めたい大集団ができました。

 

 『さあ始めましょう。これから彼らにこれ以上の恐怖を与えないよ

  うに天国から迎えがきたと思わせてください。』

 赤かった球体から一筋の光が現れその光に当たるとヒトは球体に掬い取られました。文字通り救いが行われています。

 球体にすくいこまれると必要なタンパク質を取り出し不要分は地上

に戻す仕組みで、黄金色の小さな球体として放出しました。

 光に吸い込まれ、黄金色の光が舞い降りる様は天国に招かれて行く

ようです。

 誰も不安がらないで次々と集まってきました。両手を合わせ、頭上の球体から光が来るのを待っています。

 

 『予定よりも早くできました。では終わりにしますが、地上に残さ 

  れた40億のヒトビトは一人ぼっちになります。

  このままだと彼らは孤独に耐えられずに死を選んでしまいます。

  それでは残された者たちや彼らが飼育したウシ、ブタやニワトリ

  なども死滅します。

  この星のヒトは死者を花で飾って死の悲しみを癒し、残された

  ヒトに希望の花が必要です。地上を花で覆い尽くしましょう。』

 『不要になった黄金色の球体は植物の栄養素ミネラルです。』

 『ではこの星から去る時に花の種になる球体を放出しましょう。』

 



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by;colow.81