第33話 猫の呪い『ミミズの攻撃』


 長雨のせいなのかミミズが多量に発生した。

大切にしていた盆栽にもミミズが忍んでいる。普段は庭の土中に潜っているはずが、

 夕方になると家の中に侵入して廊下や居間、キッチンのあらゆる場所に出現した。

 血管のような赤くて細長い体でうねうねと動く。

ミミズの姿を見ただけで全身に震えがくるほど嫌いな生物です。

 見つけ次第にミミズを箸で摘まんで袋に入れて庭に戻していましたが。数が増えるとトングを出して数匹同時に捕まえた。

 

 ついにミミズの攻撃が始まりました。

寝ていると耳にミミズが入り込んだのです。

うねうねと耳の奥に進んでいる感じです。

 夢の中の出来事でしたが翌日になり片方の耳が聞こえなくなっていました。

(突発性難聴)かと思い耳鼻科に行きました。

すると医者の口調が代わり。

 「変ですね、耳の中に大きなものが詰まっています。

すぐに取り出しますから。」と長めのピンセットでそのものを取り出しはじめました。

 ズルズルと音がして長さ5センチほどのミミズが出て来ました。

 先生も驚き顔で「どうしてこんなものが入ったのですか。野原で転がっていて偶然入るにしては気がつくはずですよ。」

「昨夜の夢でミミズが入るのを感じたのですが、痛みもなかったのでそのまま寝てしまい。朝になり片方が聞こえなので来たのですが。」

 「外耳に雑菌があるかもしれませんので消毒して起きます、何か変わったことがありましたらまた来てください。」

 耳詰まりは解消して聞こえるようになりましたが、ミミズの攻撃は次第に過激になりました。

 

主治医の先生に事情を話すと、

 「一過性のストレスで悪夢を感じているのでしょうから、安定するまで入院して様子を見ましょう。」

入院すればミミズに襲われないと信じていましたし、また精神安定剤を処方されたので今夜はゆっくり休められるとベッドで寝ることになりましたが、眠りに入った瞬間に悪夢はやってきました。

その夜はもう片方の耳にミミズが入り込んで来ました。

耳の奥まで進んでついに鼓膜が破られて脳幹に侵入したようです。

 鼻の穴にも数匹のミミズが入り込んで来ました。呼吸ができなくなって来ました。

 

 肛門からも、尿道からも、隠部からもミミズの侵入はすごい勢いです。

 体長が25センチにもなる大型のシーボルトミミズも参戦して来ました。

彼らは口から入り肺臓と胃袋まで潜り込んで来たのです。

 まだ残っているミミズの端を掴み出そうとしましたが、ヌルヌルとして引き出すことはできません。

 手元にある緊急呼び出しボタンを押せば看護師さんが助けに来てくれるはずですが、ボタンを押す力もなく、呼吸困難になり即死してしまいました。

 夜中の見回りで異常が発見されましたが、手当できない状態でした。

両目は充血して真っ赤になり、両手で喉を掻きむしったようでした。

死因は窒息死でした、解剖して喉や肺を調べましたが、異物を飲み込んだ後もなく異常は見られなかったようです。

 

 入院する前日のことだった。

折角だから入院中に故郷に行ったらと言われ、何十年かぶりに実家に帰ることにしました。

 畜産農家です。

豚の飼育方法は昔と違い清潔な環境で育てていました。

給餌は自動化され、泥沼だった床は綺麗になり、糞尿の匂いは少なくなっていました。

 敷地の一角に集めた糞尿を処理する浄化槽がありました。

 

溜まった汚泥は定期的に出されて、餌の残りとか木屑などと混ぜて堆肥が作られます。

 懐かしい堆肥の小山がありました。幼い頃にそれに登って遊んだことを思い出して登りましたが、

その途中でスーと気が薄れてうつ伏せに倒れてしまいました。

 堆肥の山は暖かく、ふんわりしています。いつの間にか眠ったようです。

 

 同じ時刻に入院先の病院から電話があり、奥さんが急死したので、と連絡が入りました。

 旦那はどこかに出かけただろうと気にもしませんでしたが、奥さんが亡くなられたことを知らせようとみんなで探しましたが、早朝になり堆肥の中から見つかりました。

 堆肥の山がモゾモゾと動いているのを見つけ、堆肥を掻き出すと数百匹のミミズが蠢いていました。そのミミズの塊の中から発見されました。

 救急車を呼びましたが既に死んでいました。

これが地方のマスコミに伝わり「呪いのミミズ殺人」と報道されました。

 毎日報道される親子間の殺人事件、交通事故などに飽きた民衆は現代に起きたオカルト事件に飛びつき始め、テレビにはオカルトの専門家まで連日登場して来ました。

「堆肥の中に埋まり、大量のミミズが死体を囲んでいた。体の鼻、口、肛門などあらゆる穴にミミズが潜り込んでいました。

 死因は奥さんと同じ呼吸困難による窒息死でしたが、死因は初め有毒ガスによるとされていましたが堆肥に住み着いたミミズが呼吸を止めたと判明しました。」

 

 この異常な死と奥さんの急死と何か関連があるのではないかと囁かれました。

村人の中から「何かに呪われていたのだろう。」と噂が広まり始めました。

 

 これが地方のマスコミに伝わり「呪いのミミズ殺人」と報道されました。

毎日報道される親子間の殺人事件、交通事故などに飽きた民衆は現代に起きたオカルト事件に飛びつき始め、テレビにはオカルトの専門家まで連日登場して来ました。

「堆肥の中に埋まり、大量のミミズが死体を囲んでいた。」

またマスコミは奥さんの死との関係を探り始めましたが病院では心臓疾患による突然死と発表されただけでした。

この事件は話題となったが、あっけなく消えたのです。

つづく