第08話 予約


幸せな予約

 「お客様、大変申し訳ありません。私共の不手際で不快な思いを

  させまして。お詫びとしてファースクラスに席をお取りしました

  ので、ご自由にお使いください。

かしこまった年配のチーフパサーからの申し入れだ。

 

 この数分前の出来事だ。出発間際の機内に急いで入った。

指定の席に行った時のことだ。すでにその席に先客がどかりと座り

込んで雑誌を読んでいた。

 「あのう。」と声をかけたが知らんふりして雑誌を見つめている。

 もう飛行機の扉は閉じて、エンジン音が高まり滑走路に向けて動きだす気配だ。

 まだ席に着けないでいると「急いでくだい。」と若い美人スチワーデスが駆けつけて来た。

 「私が予約した席に他の人が座っているんですけど何かの間違いで

  すかチケットはこれです。確かめてくだい。」

 美人のスチュワーデスはすぐに座っている方に声をかけて確かめてくれた。

  「申しわけありません。チケット発行の際の手違いでダブルブッキ

  ングしたようで、すぐに対応いたしますのでお待ちください。」

 

 憧れのファーストクラスに乗れるとはラッキーだ。

普段はビジネスクラスだが席がエコノミークラスより若干広い程度であまり代わり映えしない。

  どうせたまにしかない海外出張なら会社は奮発してくれないかな。と不満のまま長い飛行時間に耐えるだけだ。

 今回は違うぞ生まれて初めてファーストクラスの席だ。

広すぎて落ち着かないが、隣の乗客のように落ち着いて座ることにしたが、背中がむずかゆくなった。

 だめだ。ダブルブッキングで座ってのがバレバレだ。

そのうちに重役気分に変わった。そうか重役になれば座れるのだと気がついた。よし帰国したら社長の茶坊主になってゴマスリの日々を送れば重役にしてくれるだろう。

 配られたお酒を味わい、使い方のわからないナイフとフォークで美味しい食事をふんだんに食べられた。

 ああ、なんと幸せなのだろう。

 

コンピュータの無い、昔の予約は。

 昔の座席予約は駅に出かけ役所に提出するような書類を出すと受付が始まり、駅員は指定券予約センターに電話をした。

 予約センターには中華テーブルのような中央で回転する棚があり、テーブルの周りには多くの係員が電話対応をしていた。

 電話を受けた係員は棚を回して希望の列車名を探し、取り出して席の有無を調べ、空きがあると番号を電話で知らせ、予約積みを帳簿に記帳して棚に戻す仕組みだった。

 飛行機は世界中の座席を予約するのだから列車のそれとは比べものにならない取扱量で、各地でダブルブッキングの悲劇と幸せが誕生していたようです。

 

不幸せな予約が訪れた。

 旅をする時は、目的地の景色を想像し、ついでだからと観光地を見つけ出し、唾液が出そうな宿のうまそうな写真で頭がいっぱいになってから、いよいよ予約が始まる。

 パソコンを操作して、最高と思われる場所と日にちを打ち込んで予約は完了した。

 (予約完了)の表示と予約明細を印字して、予約を忘れないように時々予約表を眺めてはもう少し違う場所を選べばよかったと反省したりするのだ。

 ここでうるさい奥さんに「予約ができたよ。」と最終報告するのが決まりで、旅の計画段階から相談すると「それなら行かないわ。」で話しは終了してしまう。

 さて、旅行日が間近に迫ると天気が気になり出しスマホのお天気情報を何件も見比べ始めた。

 午後は曇りなら行けそうだが。別の天気サイトでは雨模様と出ている、何件かのサイトを見比べては都合にいい予報をあてにした。

 テレビのお天気情報が当たり出してきた。

 その日は急激に発達した低気圧で予約した地区は猛烈な豪雨がありそうとのアナウンスだ。

 「ああダメか諦めようか。」とため息交じりで話すと。

 「だから言ったじゃない。あなたはいつも早く予約するからこんな

  ことになるのよ。」

 「俺のせいじゃあないよ。お天気が悪いんだから。早めに予約すれ

  ば安く行ける場所を選んだけどな。残念だが取りやめよう。」

 「また取り消し料金払って行けないなんてバカよ。」

この日を境にお使いは減ってしまう恐怖がよぎった。

 「現地に連絡してみるよ。」

残された少しの望みで電話をすると。

 「もしもし、明日ゆく予定ですが、そちらの様子はどうですか。」

 「ご予約ありがとうございます。ぜひお出でいただきたいのです

  が、先月の大雨で道が崩れやっと治った程度でして、明日は無理

  ですよ。」

 「予約金を払ったのですが、返してくれますか。」

 「申し訳ないのですが、ネットのお客さまは予約先が料金を受け取

  るので、私どもはどうしようもないです。それに予約の連絡が入

  ると仕込みをしまして。」

そうかあ。当分の間は旅に出るのは諦めよう。

 

数々の予約

 9月に入るとおせち料理の予約が開始され、まだ3ヶ月先の予約だが、今頼むと格安になるとの宣伝だ。

 冷凍の技術は進歩して食材に適した冷凍方法で味を変えないで長期間の保存ができ、おせち料理に大活躍だ。

 正月は必ず来るし、お客さんが来なければおせち料理は自分たちで食べられる。お天気に左右されない確実な予約になり、予約にうるさい奥さんは先を争うように予約したようだ。

 次はワクチンや予防接種の予約であるが、まだスムースに予約できていないのが現実で、電話は通じないしスマホでオンライン予約ができない人がいる。

 忘れてしまったパスワードを入力しろとか、カタカナに溢れる予約サイトだったり、予約したい高齢者には不向きで誰が文章を作り、承認したのは誰か疑りたくなる。

 「お父さん。おねがいね。」

の命令で、パソコンからの旅予約の不手際を挽回したく、いざ挑戦したが宿の予約に比べてなんと複雑であること。

 予約のプロに任せない役所と関連企業とのでっち上げとしか思えない出来栄えだ。

 「この予約は難しいな。なんだこりゃ。」と独り言の呟きが出てしまった。

 どうにか予約しても予約完了のプリントが出て来ない。(メモしてください)の文字が出るだけだなんて。」

 

 レストランの予約は多少の覚悟がいる。食べてみないとわからない味はどうなのか、とか未経験の食材だったら食べ方が分からない。どうしよう。

 こんな予約をしたレストランに入った時のなんとも言えない緊張感と優越感が一瞬だけある。

 普段は着ないよそ行きの格好をしていざ。

 「予約したものですが。」

受付嬢は深くお辞儀をして、

 「あのう。お名前をお伺いしてよろしいでしょうか。」

名前を告げると

 カウンタ裏に隠していた予約簿を出した。この瞬間はいよいよ未経験の空間に案内されて、意味不明の分厚いメニューが待っているのだと期待と不安が駆け巡るのだ。

 緊張の中で食べたが、何を食べたか名前も味も覚えていない。こんなことならいつものラーメン屋にすればよかったなあと反省する。

 

 最近はサプリメントの広告が目立つ。定期予約は住所、氏名、生年月日からクレジット番号までの個人情報を得たいために、初回半額と送料無料がセットになっている。

 初回半額なので予約すると、その後は凄まじく限りなく広告が届くのだ。

 半額とか無料とわかるとこの品物はいくらで作られているものか疑ってしまう。

 薬九層倍だろうな。そうでなければあれだけの有名な芸能人が出演して、莫大な宣伝をして、豪華なガラス瓶に詰めているのだから材料原価は知れたものだ。

 

 予約とは違うが、予定時刻が正確なのには驚かされる。車のナビに表示される到着時刻はぴったりなのに感心する。

 あそこで渋滞して、速度違反しない程度で飛ばした努力の結果なのか。と思ったら渋滞にはまると到着時刻が遅れ、速度が増せば時刻を進める仕組みのようだった。

 

 高齢になると葬儀社の事前相談の看板が気になる時がある。

 死ぬ時が決まっていれば、早割を利用して予約すれば葬儀費用を安くできるだろうが、医者も本人もわからないのが死ぬ時だ。

 だが、死んでからの葬儀スケージュールは予約のオンパレードであることをご存知だろうか。

 高齢者の増加と流行病で亡くなる人が増えて、火葬場の空き待ちが常態化していますよ。

 火葬の順番が決まってからの予約が大忙しになり、葬儀会社の腕前を発揮するときです。

 参列人数にあった葬儀会場の広さとか、宗派にあった坊さんの予約や、食事内容や時間わり、などなどを短時間で企画して予約連絡することになるようですよ

 

 そろそろ事前予約する時期が私に来たようですね。



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by;colow.81