第09話 日曜大工


 庭先にキャンプで使ったタープテントを張った即席の作業場が完成した。これなら突然の雨から逃げられるし、道具箱を濡らさないで済む。

 それにここは自分が使える唯一の場所になった。

 今日はパソコン部屋で使う木製椅子を作る予定だ。

工作図はパソコンで書き上げて、材料は近くのホームセンターで購入して準備は整った。

 まずは椅子の重要部品である足の部分の角材の切断から始まった。

 ベニヤ板の作業台を倉庫から引き出して、作業場に置いていよいよ椅子作りがスタートした。

 角材は4本とも同じ長さに切り揃えないと、出来上がった椅子がガタガタして座り難くなる。

 十分理解はしていたが角材に物差しで切断箇所を書き入れたつもりだったが、線に沿って切ってみると斜めに切れたのか。切断の線が違っていたのか4本の角材は寸法が異なって仕上がった。

 これでは椅子ができない。と悟り角材の寸法を合わせる作業が始まった。

 ヤスリで削ったがわずかに寸法が減るだけだし、切り口を直角にできない。そこでスマホをいじっていた息子に手伝わせることにした。

  「おーい、そっちを押さえてくれ。」 

 「ちょっと待って。」と答えたが。またか手伝っても出来上がりそうにないや。ブツブツ独り言をつぶやいていた。

 作業台の端に角材を出して、ヤスリでゴリゴリと削るのだが、腕の力がないトーチャンだからヤスリが踊っていて削れていない。それどころか作業台の端を削りだした。

 「僕が削るからトーチャンは押さえてくれない。」

 いつの間にか息子の背はトーチャンを超えて、部活で鍛えた体はすでに負けていた。

 角材はどうにか揃って出来上がった。

 「トーチャン。この台がガタついててうまく作れないんだよ。今度

  は作業台を作らないで買ったほうがいいよ。」

と言われてしまった。

 「それからさ、庭だからデコボコで作業する場所じゃあないよ。」

またも痛いところを突かれた。

 よし今度はコンクリートの床に挑戦するか。と思ったが道具はないし、やり方はわからない。業者に頼むほどの面積でもない。

 

 昔は近所の大工さんに頼むとどんなに些細なことでも「ああいですよ。」と快く引き受けてくれたが。

 最近はホームセンターに出かけリフォームを依頼するが、利益にならない小さな作業だと断られる可能性がある。

 細かな作業は手間がかかるし、利益が薄くて引き受け手がいない、また大工道具を使えない職人さんが増えたのではないでしょうか。

 今頃の大工さんは建築現場で釘を打ったり、ノコギリで切っている姿を見かけない。

 工場であらかた作り現場での加工はしてないようだ。

 トン・トントントンとリズミカルな音は懐かしいものになり、空気圧か電動で一瞬で釘が打ち込まれている。

 クルクルと巻いたカンナ屑は見当たらない懐かしものになった。

ノミもカンナも現場にないようで、旧式な大工道具を使える大工さんはいなくなったのでしょうか。

 

 頼める大工さんがいなくなると、小学生の頃の工作の時間を思い出して、あの頃はできたのだからと見よう見まねで作りだす。もしダメなら買えばいいさから始まった。一つが完成すると。その時の喜びを再び得たくなり日曜大工の虜となり、器用貧乏が開花したのだ。

 この程度なら業者に頼むと高いし、断れるだろうし、様々な道具と機材はホームセンターで揃っている。また高価な道具を貸してくれたり、加工を請け負ってくれる。その結果日曜大工にのめり込みいらないものが続々と増え出してしまった。

 それはついに業者に手間賃を取られるくらいなら、浮かしたお金で道具とか部品が買えるからとますますツボに入り込んでしまう。

 果たして、このまま日曜大工を続ける生活でいいのだろうか。それに毎回息子に手伝わせていて、もし息子が将来、日曜大工に凝り出したら。俺と同じ貧乏暮らしにならないか。と悩む日々だ。

 

 これが器用から誕生したKYB、器用貧乏である。

 器用でなければ工事業者見つけ出して、依頼するお金をどうすれが稼げるのかを常に考え、株などに投資する。

 その結果思わぬ利益を得て、家の改造修理でなくて新しく大きな家を立てたり、高級外車を乗り回す金持ちになるかもしれない。

 これを聞いたKYBは金を稼げる知恵(博才)がないので、せめて宝くじを買うなどチビチビした投資しかできないでいる。

 抜け出せないKYBを相手の商売は大人気で大工仕事だけでなく様々の面に拡大して、何でも自分でやるDIYに進化して、これを対象にしたホームセンターは強大化して4兆円市場となった。

 DIYは金持ちの娯楽になり、KYBは売り場の片隅に追いやられたよ

うだ。

 

 そして、時代は進化した。

 以前なら展示会場廻りからは始まり、建築業者と幾度も打ち合わせを行っていたが、その面倒が省けた。

 デジタル技術を駆使した家作りだ。基本の家の骨格は3Dコンクリートプリンタで作り、いく種類かの家のパターンから選ぶだけになった。

 家の壁紙張りや天井張りはロボットが施工するのだが、これは自分でやることにして機械に任せない方法を選ぶことに決めた。

 基礎工事は安全基準に従って、穴開機が掘った穴にコンクリートが流し込まれ、次に基礎の床や壁から天井、屋根までがプリンタで出力され数日で完成した。

 水の給排水工事はロボットがやってくれるらしいが、これもKYBで鍛えた技が使えそうなので自分自身で工事をした。

 床は断熱性とクッション性に優れた床専用のコンクリートで作られて、床張りの楽しみが取られてしまった。

 家の完成を待って家電の取付だけが作業として残されていた。

 かなり昔ならテレビの組み立てキットが売られていた。これを組み立てると市販品よりも安く映像が見られた時代があり、KYBの喜びであった。

 しかし、その後はICからLSIが登場してしまい、家電の分野からKYBは除外され一部のマニアに引き継がれている程度だ。

 調度品も3Dプリンタに奪われてしまい、KYBは課題を探し求める続けるのか。

 以前なら数年をかけて家を丸ごと作るKYBがいたが今はいるだろうか。もしかすると山奥にKYBの世界が残っているかもしれない。

 

 

 

 



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by;colow.81