第29話 『猫の呪い』別れと出会い


 夫の葬儀を終えて待つ人がいなくなった家に戻るときのことでした。

 頭の中にはお悔やみの声や、お坊さまの読経や鐘の音がまだ残っていました。

 家の近くに来た時に『ミニャーミニャー』と今にも消えそうな猫の鳴き声で、ふと我に帰りました。声のする場所を探すと側溝の中に黒色の子猫が鳴いていました。

 親猫から逸れて側溝に落ちてしまったのか。それとも黒猫は不吉だからと思った人が子猫を捨てたのでしょうか。

子猫はまだ目が見えないようでした。生まれたばかりだったのでしょう。

 口を突き出して親猫を探しているようです。鳴き声がか細くなっています。

 このまま放置すれば数時間で子猫の命は尽きてしまうでしょう。

 子猫を忘れてその場を立ち去ろうと思いました。

溝に手を差し伸べると子猫は手のひらに乗って来ました。

『ミニャーミニャー』と声を思い切り張り上げて鳴き続けていました。

 猫を拾ってもこれからどうすればいいのか分かりません。

このまま家に持ち帰っても弱り切った子猫は死んでしまうのではないでしょうか。

 近所に猫を飼っている人がいればどうすればいいのか聞けるのですが、心当たりはありません。

 そうだ駅の近くに動物病院があったことを思い出しました。

 

 家に急いで帰っても待つ人はいないし、遠回りするけど動物病院で猫の育て方を聞けるかもしれません。

 子猫はブルブルと震えていましたが、歩き出すと静かになりました。

 手の温もりで安心したのでしょう。

動物病院に着くまでの間、子猫を落とさないようにそっと歩いていました。

 その間は夫の葬儀があったことを忘れていました。

寂しがり屋の私のために子猫を授けてくれたのだろう。と気がついて涙が出て来ました。

 

この子猫に(ミイちゃん)と名前をつけました。

夫の名前は(充)だったのです。

 つづく