第26話 老人の医学


 次の方どうぞ。」

と呼ばれて診察室に入った。

 「荷物はそこのカゴに入れてお座りください。」

1ヶ月ぶりの内科の診察だ。いつものようにパソコン画面に向いたままの医者がいた。

 「変わったことはありませんか。」

画面に話しかけていた。

 何かあったかな、思い出すようなこともない1ヶ月だった。

仕方なく。

 「特に。」

と答えてしまった。

 「血圧が高めになっていますね。薬を変えておきます。」

これが診察終了の決まり文句だ。

 「ありがとうございました。」

と診察室を出た。

 ドアが閉まらないうちに次の患者と入れ替わった。

30分以上は待たされたが、わずか30秒間の診察だった。

 

 診察を待つ間は時計を眺め、トイレに行きたいが席を離れると次の番が来るまで待たされてしまう。あと少しの我慢だ。と落ち着かない時間だったが。

 診察を終え待合室の椅子に座ると今日までの出来事を思い出した。

そうだ医者に聞きたかったことがあった。

 引き返して聴くにはまた30分待つことになりそうだ。来週来た時は必ず聴くぞと誓った。

 薬袋は来院の度に種類は増えて次はエコバックを持参しよう。

今日血圧検査をしたことを思い出した。

 「少し高いですね。」と聞いたようだ。

思い出した。血圧が高くなると強い薬に変わるようだがいつまで飲み続けるのか聞きたかったのだ

 

 それからも決められた食前と食後に山盛りの薬を飲んで、この他にひざ痛や便秘が改善されると宣伝しているサプリを数種類頬張るのが日課です。

 体の隅々まで薬とサプリが行き渡るのだから健康でいられるのだ。と信じている。

 無理に歩くとか体を動かすとその後が痛くなる。出歩けば交通事故で怪我をしたら再起不能になりそうだ。家から一歩も出ないで階段を使う二階には登らない。風呂はぬる湯に10分間浸かると健康にいいと聞いたので守っている。

 テレビの見過ぎは目に悪いと言われブルーライトが目を痛めると光線をカットするメガネをかけているが、4Kテレビの有り難さは半減してしまう。でも健康第一だ。

 

 医者は基準値を越さない様に調合するのが名医なのか。基準値は誰が決めたのか。

 基準値を越さなければ健康で寿命が延びると誰も言っていない。

医者が決めた薬を患者は勝手に増減や取りやめることはまずないだろう。医者が出したのだからと信じていて、途中で断れないで黙ってありがたく飲み続けている。

 初診の際には自覚症状を細かく訴え、様々な検査をして、治療に最適な薬を調合されたが、薬が効いたのならそれを継続する必要があるだろうかと説明を聞くことだろう。

 「あの薬をやめたい。」

と訴えた時その医者は自分診断にケチをつけるのか、と感じてはいないだろう。遠慮してはならない。

 あくまで手助けするのが医師で、助かりたいのが患者だ。

患者の訴えの殆どは医師から見れば軽症であるらしいが、本人は重症と思って医者と訪ねている。自分は軽傷と思っていたが重い病の前兆だと気がついてくれる医者がいる。

 重症を経験した人の話だと普段とは違う痛みだと話してくれた。

 

 医師は四六時中病気持ちと向き合っていて診察室に入る状態だけで概ね判断できるらしい。

 だが患者側は初めてのことでなんとか訴えて治したい一心で医者に会いにきたのだ。

 話を聞かない医師がいたらすぐに自分と波長の合う医師に変えることが大切になる。画面ばかり見つめている医師は名医ではない。患者と目を合わせて聞いてくれて、余計な薬を出さないのが自分に遭った名医ではないでしょうか。

 

 ところで精神科の薬は自己判断でやめたがる傾向が強いと聞いている。気分がいいからと薬を飲まなくなり、その結果再発してしまう。

 腹痛のように一時的な場合は症状が消えれば薬に頼らないが、長期間治療する病では検査数値が頼りで薬を飲み続けるのだろうか。

 

 だが年々の衰えを実感し出すと薬の効果だけでは治せない症状が出始めた。

 放置した小さな庭の草を抜いた時のことだ。多少綺麗になったが腰に痛みが出た。腰が痛いと訴えると痛み止めと胃薬がセットで出される。そのほかに血流を良くするビタミン剤も出ておまけに貼り薬が処方された。

 次に別室に移されて腰を蒸しタオルで湿布して、電極を取り付け電気治療が始まった。勝手に皮膚が動く不思議な感覚だった。

 「いく日か続けてください。」との指示があった。あら治療期間が終わる頃になると庭草は成長して再び辛い草取りが始まる。これの繰り返しはやめてこれから除草剤を使う決心がついた

 

 町内に血圧が高くてもタバコは吸い、酒は飲み、ゴルフをしている人が病気で休んだとは聞かない。これとは逆に健康を気にして閉じこもり生活を続けている人が突然に病院生活をしていると聞かされる。なぜだろうか。閉じこもりに最適な場所が病院かもしれない。

 

 「普段、歩かないと歩けなくなりますよ。寝たきりにならないようにウオーキングをしてラジオ体操をしてください。体は食事でできています。炭水化物は動きになります。肉や魚でタンパクを取ってください。頭も使わないとダメです。

 若者の時のようなことはできなくなりますが、自分で動けるうちは多少無理してでも動くことです。」

と整形外科医の話があった。

 それを守っていてもある時を境にガクッと体力が落ちるのが高齢者の定めと聞いた。もうじきその時が来るのだろうか。不安と楽しみが交差してきた。

 生物学的な限界かもしれません。何らかの事情で寝込むと立ち上がれなくなり介護を受け続けるらしいです。

 

 ゴロゴロしているのは楽だし、あの世に行けばもっと寝て暮らせるので、生きている間は頑張らないと。

 

 医学薬学が発達して、食料が豊かになり、環境も良くなって現在の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳になり、健康寿命は72.68歳と75.38歳であるがさらに延びるだろう。高齢になっても健康で自立した生活が可能になった。

 体の部分に障害が出ても科学が解決してくれる。

 目には老眼鏡、白内障になったら水晶体の交換、聴覚は補聴器が発達している。

 歯は入れ歯があるし、インプラントは自分の歯のように使える。

 足や腰の関節部分は人工関節に置き換えて動けるようになる。

 

 医学の発達はすごい。もう少し長生きすればもっと素晴らしことが実現するだろう。

 

 

 



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by;colow.81